「ママ、今は英語で話してるよ」
先日、長女のHikari(7歳)と長男のZen(5歳)がリビングで遊んでいる時のことです。二人はブロックで何かを作りながら、自然に英語で会話していました。ところが、ふとした瞬間にHikariが「ママ、これ日本語で説明するね」と切り替えたんです。
その切り替えのあまりの自然さに、私は思わず「今、英語と日本語、どっちで考えてるの?」と聞いてしまいました。するとHikariは「考えてないよ。話すときに決めてるだけ」と、あっさり答えたんです。
この「話すときに決めてるだけ」という感覚こそ、マレーシアのインターナショナルスクールに通う子どもたちが自然に身につける力だと、日々実感しています。
言語の「スイッチ」が育つ環境
ペナンに来て3年半。HikariとZenが通う学校は、授業はもちろん、休み時間の会話も基本英語です。ところが、友達同士でも中国系の子は広東語や北京語、マレー系の子はマレー語を交えて話す場面をよく見かけます。
ある日、Hikariが言いました。「学校ではね、英語で話すのがルールだけど、休み時間は友達と秘密の言葉で話すんだよ」。その「秘密の言葉」とは、マレー語の単語を混ぜた英語だったり、広東語の挨拶だったり。子どもたちは遊びの中で、相手に合わせて言語を選ぶ練習をしているんですね。
これは大人の私たちが想像するより、ずっと高度な認知プロセスです。脳科学の研究でも、複数言語を日常的に切り替える子どもは、実行機能(計画立案や注意制御)が発達しやすいと言われています。Hikariが「考えてない」と言ったのは、そのプロセスが無意識の領域にまで落ちている証拠なんです。
「言語を選ぶ」ことが思考を鍛える
日本で育っていたら、おそらく「日本語で考えて、必要に応じて英語に翻訳する」という順序になるでしょう。ところが、マレーシアのインターに通う子どもたちは、状況に応じて「どの言語を使うか」を先に決めてから話し始めます。
例えばZenが公園で遊んでいるとき。マレー系の隣人のおばちゃんに「Apa khabar?(元気?)」と聞かれたら、即座に「Khabar baik(元気だよ)」とマレー語で返します。その直後に、同じ遊び場にいた日本人のママ友に「ねえ、見て見て!」と日本語で話しかける。この切り替えの速さは、言語運用能力というより「状況判断力」そのものです。
この力は、将来どんな分野に進んでも必ず役に立つと確信しています。ビジネスの場面でも、相手の立場や文化を瞬時に読み取り、言葉を選ぶことができる人材は貴重ですから。
親ができるサポートとは
とはいえ、親として心配になることもあります。特に日本語の保持です。我が家では、家の中では基本的に日本語と決めています。ただし、HikariとZenが英語で話し始めたら、無理に日本語に戻させたりはしません。
大切なのは「日本語でなければならない」というプレッシャーを与えないこと。言語はコミュニケーションの道具ですから、子どもがそのとき話しやすい言語を選べる環境を整える方が、結果的に言語全体の発達を促すと感じています。
また、日本語の補習校に通わせるかどうかも検討しましたが、今のところ週末に日本の絵本を読んだり、日本のテレビ番組を一緒に見たりするだけで十分だと判断しています。無理に「日本語の時間」を作るより、自然な会話の中で日本語に触れる機会を増やす方が、子どもたちの負担にならないようです。
ペナンだからこそ育つ「言語感覚」
マレーシアの中でも、ペナンは特に多言語環境が豊かです。中華系、マレー系、インド系、そして日本人を含む駐在員家族が混在するこの島では、街中で3〜4つの言語が飛び交うのが当たり前。子どもたちは学校だけでなく、日常生活の中で「どの言語で話すか」を常に選択しています。
例えば、フードコートで注文するとき。店員さんが中国系なら「咖啡(コピ)をください」と中国語で、マレー系なら「Kopi, please」と英語で。Hikariはもう、相手の見た目や雰囲気でどの言語が通じるかを判断できるようになりました。
この「言語を選ぶ力」は、単なる語学力以上に、相手を理解しようとする姿勢や、コミュニケーションへの積極性を育ててくれます。教育移住のメリットは、学費やカリキュラムだけではない。こうした目に見えない「生きた力」を自然に身につけられることこそ、最大の価値だと感じる今日この頃です。
(2026年5月7日現在の為替レート:1 MYR = 39.79 JPY)

